医療者と人類学者による症例検討会

企画についての説明

症例検討会を通じた医療者向け人類学教育

社会科学を卒前医学教育カリキュラムにとり入れる動きは諸外国にもみられますが、各国とも必ずしもうまくいっていないのが現状です。その要因の一つに、医学生が社会科学と臨床との関連性を感じにくいということがあり、心理社会的側面に関心が向けられやすい臨床実習と結びつけた教育の重要性が指摘されています。
しかし、現場の臨床医は社会科学に必ずしも精通しておらず、社会科学者は臨床現場の状況に疎い傾向があり、双方の連携が課題とされています。そこで、川崎医療福祉大学の飯田淳子(人類学)と京都大学の錦織宏(医学教育学)が中心となり、何人かの医療者および人類学者とともに、臨床と関連づけた人類学教育の一手法として、人類学者と医療者との共同の「症例検討会」を開発し、評価を行いながら改善を重ねてきました。

人類学者・医療者合同の「症例検討会」とは、臨床現場において社会的文化的な要因により対処が困難であった事例を医学生/医師が提示し、それについて 人類学者を含む参加者で討論したうえで、人類学者が コメントを行うというものです。実際には医学的な 「症例」ではなく、「事例」を検討する会ですが、臨床との関連性を強調するために、医療者にとってなじみのある 「症例検討会」という用語をあえて用いています。
検討会のプロセスは以下のとおりです。

1
検討会に先立ち、医学生/医師が人類学者に対して、検討したい症例(の候補)およびその症例についての疑問を提示する。提示された症例候補が複数あれば、そのなかから人類学的な議論につなげやすく、その議論が初学者にとってわかりやすいものを人類学者が選択する。
2
症例が決まったあと、医学生/医師が症例に関する情報や、症例についての疑問(問い)を詳細に記した発表スライドを作成する。
3
人類学的な視点で検討するにあたって不足している患者の社会的背景などに関する情報を、提示した医学生/医師に人類学者が指摘し、適宜、 臨床現場や他職種、カルテなどから(再)収集していただき、発表スライドに適宜追加していただく。
4
当日は、人類学のごく簡単な概説講義、および医学生/医師による症例と疑問点(問い)の提示の後、参加者は提示された問いについての小グループ(1グループにつき6~8名程度)討議を行う。各グループには人類学者もファシリテーターとして参加する。その後、グループ討議の内容を全体で共有したうえで、最後に人類学者による症例へのコメントが提示される。最後にコメントに基づいたディスカッションを全体で行う。

これまでの取り組みの記録
(2015年度~2017年度)

〈医学部学生対象の症例検討会〉
日付 場所 企画名 医師・教員
参加者数
人類学者
参加者数
企画
参加者数
2015年
1月8日
A大学 臨床実習ふり返り 2 1 10
(学生)
2015年
10月30日
A大学 臨床実習ふり返り 2 3 10
(学生)
2016年
7月1日
B大学 文化人類学✕
地域医療カンファレンス
3 2 2(学生)
7〜8(教員)
2016年
10月27日
A大学 臨床実習ふり返り 2 3 10
(学生)
2017年
10月17日
A大学 臨床実習ふり返り 1 2 10
(学生)
〈卒後の医師・研修医・教員等向け症例検討会〉
日付 場所 企画名 医師(企画側)
参加者数
人類学者
参加者数
企画
参加者数
2015年
6月12日
つくば
国際会議場
第6回日本プライマリ・ケア
連合学会学術大会
プレコングレスワークショップ
4 6 30
2015年
11月8日
大阪科学技術
センター
第11回日本プライマリ・ケア
連合学会秋季生涯教育セミナー
5 7 40
2016年
2月10日
C診療所 家庭医療学・医療人類学
カンファレンス
3 2 5
2016年
6月10日
台東区民会館 第7回日本プライマリ・ケア
連合学会学術大会
プレコングレスワークショップ
4 6 30
2016年
11月6日
大阪科学技術
センター
第13回日本プライマリ・ケア
連合学会秋季生涯教育セミナー
5 5 40
2017年
5月12日
高松
シンボルタワー
第8回日本プライマリ・ケア
連合学会学術大会
プレコングレスワークショップ
5 5 40
2017年
7月22日-23日
岐阜大学医学
教育開発
研究センター
第65回医学教育セミナーと
ワークショップ
3 5 18
2017年
11月11日
大阪科学技術
センター
第15回日本プライマリ・ケア
連合学会秋季生涯教育セミナー
5 6 40
2018年
1月27日
大阪医科大学 日本プライマリ・ケア
連合第4回
大阪府支部年次フォーラム
3 5 37
2018年
2月25日
D医科大学 初期研修医まとめの会 8 5 60

各回とも、人類学者が驚くほど活発な議論がなされ、「症例」に対する参加者の見方に何らかの変化がみられています。例えば、医師の考えが及ばなかったことを人類学者が問い、新たな気づきや仮説が生まれること。あるいは、患者の言動の背景を探っていくことにより、それが患者の人生史や社会関係(医療者を含む)の文脈のなかでもつ意味が見出されていくことがあります。発表者にはこうした変化が事前準備の際に人類学者とやりとりをする中で起こることもあります。他方で、短時間で人類学的な視点や考え方を身につけられるかといえば、限界があり、検討会の目標や着地点を巡り、試行錯誤を続けています。

問い合わせ・実施依頼

〈医学部学生対象の症例検討会〉
飯田 淳子
(川崎医療福祉大学 総合教育センター/医療福祉学部)
〒701-0193 岡山県倉敷市松島288
TEL 086-462-1111 (内線 54964) 
E-mail iida*mw.kawasaki-m.ac.jp 
(*を@にしてください)
錦織 宏
(京都大学医学教育・国際化推進センター)
〒606-8501 京都市左京区吉田近衛町
TEL 075-753-9325  
E-mail hiroshi.nishigori*gmail.com 
(*を@にしてください)