医療人類学を学ぶために

「ケアと共同性の人類学:北海道浦河赤十字病院精神科から地域へ」
浮ヶ谷幸代(著)/生活書院2009年/¥3,400+税
- 関連する医学分野:
- 精神医学、精神看護学、精神保健福祉学、地域医療
- 想定される読者:
- 思想好きの人にお勧め(ある程度の予備知識が求められる)
- 内容紹介:
本書は、2006年に1ヶ月にわたって精神科病棟にフィールド調査に入り、そこで展開されている看護師のケア実践をエスノグラフィック・アプローチによって描き出した本である。ケアの互酬性、ケアの応答性、ケアの場所性、ケアの他者性というケアの4つの特徴を描き出し、多彩で広がりのあるケアの重なりを共同性として読み解いている。これまで精神障がいの当事者活動で有名な社会福祉法人〈浦河べてるの家〉の陰に隠れていた浦河赤十字病院精神科病棟スタッフの取り組みに焦点をあてることにより、浦河町の精神保健福祉における厚みのある支援と深みのあるケア実践が明らかにされている。2015年以降、実質的には精神科病棟が廃止されたことにより、本書に収載された看護師のケア実践は既にアーカイブと化し、今は見ることはない。他方で、地域で当事者とともに暮らす地域住民が当事者をどのように捉え、どのように認識しているかを地域住民の視点から描いた論文も収めている。副題にもあるように、精神科病棟から地域へというケア実践の広がりを意図したものであるが、精神科病棟の廃止を予知したかのような構成となっている。ケアの実践者には是非手にとって欲しい本である。